夜中にならないと眠れない『睡眠相後退症候群』の原因と治療法

「早く寝ようと思っても夜中にならないと眠れず、朝は目覚まし時計をいくつ用意しても起きられない。起きるのはどうしても昼過ぎになってしまう……」

このような悩みのある方は『睡眠相後退症候群』にかかっている可能性があります。

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どういう睡眠障害なのか?

睡眠相後退症候群は、睡眠時間帯が後ろにずれてしまう睡眠障害です。多くの人が眠る時刻である午後10時~午前1時までの間に入眠できなくなります。個人差もあるようですが、夜中(2~4時)になって、ようやく眠気がおとずれます。また、必然的に起きる時刻も遅くなり、お昼ごろに目が覚めます。

睡眠時間帯は後方にずれているものの、就寝時刻と起床時刻はほぼ固定されています。つまり、睡眠の周期自体には乱れはありません。また、眠りの深さにも大きな問題はないとされています。
(必要な睡眠はしっかり取れているということ)

しかし、朝なかなか起きられないため、社会生活上の支障が出やすいです。たとえば、学生の登校拒否や社会人の出社拒否などにつながる可能性があります。

また「やる気がない」「怠けている」といったレッテルを貼られてしまい、精神的に苦しい思いをする方も多いのではないでしょうか?実際、睡眠関係の専門書には、次のような記載があります。

周囲から怠惰であるとの印象をもたれやすいこともあって、二次的に抑うつ気分を呈することもあります。

睡眠学Ⅱ 睡眠障害の理解と対応 / 北大路書房

「怠け者だと思われたくないから、がんばって早起きしよう!」と思っても、その早起きができません。目覚まし時計を複数セットして、家族に起こしてもらっても、なかなか目が覚めないのです。

かりに無理やり起床したとしても、午前中は眠気や倦怠感、頭痛などの不調が高確率で発生します。そのため、短期的に早起きしても、しばらくすると元の睡眠リズムに戻ってしまいます。

睡眠相後退症候群の原因とは

睡眠相後退症候群は、夜型リズムの生活を続けることによって発症すると考えられています。

たとえば、

  • 長期休みの間に、昼夜逆転の生活を続けていた
  • 試験勉強のため、夜遅くまで起きている生活をしていた

などが、発症の引き金になりえます。

下記は、専門書に載っていた症例です。これを読むかぎり、夜型の生活を一定期間続けることは、明らかに睡眠相後退症候群の発症因子と言えます。

17歳、女性、高校生。両親が働いていたこともあり、小さいころから夜遅くまで起きていることが多かった。高校1年のころから朝起きづらくなり、午前中は眠気が強く授業に集中できなくなり、起床後に頭痛や嘔吐も出現するようになった。夏休み中は午前2時ごろに寝て、午前11時ごろに起きる生活をしていた。

睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第2版 / じほう

なお、日本で行われた調査では、高校生の有症率が0.4%、15歳から59歳の一般では0.13%と報告されています(出典)高校生の有症率がやや高めなのは、夜型生活に陥りやすいからでしょう。

では、学生ではなく社会人の場合はどうなのでしょうか。やはり、夜型の生活リズムが続くと、睡眠相後退症候群になる可能性があります。

たとえば、

  • 準夜勤が多い仕事をしている
  • 勤務時間の融通がきく仕事(フリーランスのプログラマーなど)をしている

などは睡眠時間帯が後方シフトしやすいので、睡眠相後退症候群の発症要因になります。

ただし、夜遅くまで起きている生活を続けたからといって、誰でも睡眠相後退症候群になるわけではありません。なりにくい人と、なりやすい人がいるからです。

人間の睡眠リズムには、「朝型」「夜型」「その中間の昼型」があります。これらは、遺伝子によって左右されるのですが、もともと朝型のリズムを持っている人は、夜遅くまで起きていること自体が困難です(なので夜勤がとても苦手)。短期的に夜更かししても、そのうち元の朝型リズムに戻ります。そのため、睡眠相後退症候群になりにくいです。

それに対して、もともと夜型のリズムを持っている人は、容易に睡眠時間帯が遅くなるので、睡眠相後退症候群にかかりやすいです。

ひばり-ふくろう(Horne-Ostberg)型質問紙法は、「夜型」と「朝型」の時間型を評価するために有用な手段である。概日リズム睡眠障害・睡眠相後退型患者は、明確な夜型と採点される。

睡眠障害国際分類 第2版 診断とコードの手引 / 医学書院

朝型・夜型の判別は、ふくろうとひばりの質問表(下記URL)を参考にしてみて下さい。
http://park3.wakwak.com/~yamashita-iin/fukurou.htm

睡眠相後退症候群を改善するには

「夜早く眠るために、睡眠薬を使えばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、睡眠相後退症候群に対して睡眠薬はあまり有効ではありません(後述のロゼレムは除く)。

そもそも、睡眠相後退症候群の根本的な原因は、体内時計のリズムが遅れていることです。睡眠薬を使っても強制的に眠りがやってくるだけなので、体内時計のリズムはなかなか改善されません。

ではどうすればいいのでしょうか。ここでは、代表的な治療方法を3つ挙げます。

1.時間療法

入眠時刻の遅れに合わせて、わざと同じ方向に就寝時刻をずらしていく方法です。

具体的には、毎日起床と就寝の時刻を3時間ずつ遅らせます。1週間くらいで望ましい時刻に就寝・起床できるようになったら、その状態を固定化します。

睡眠時間帯を早めることは困難ですが、遅らせるのは比較的簡単なことから考案された方法です。

ただしこの方法では、たとえ希望とする時刻に就寝・起床できるようになったとしても、次第に元の睡眠リズムに戻ってしまうことが多いようです。

薬や特別な道具を使わないので、簡単にできるような感じもしますが、自己流でやるのは危険です。時間療法で寝る時間と起きる時間を毎日ずらせば、体内時計は混乱します。1週間で成功すればいいですが、何度も失敗すると、体内時計の機能が狂ってしまいます。

その結果、別の睡眠障害になる可能性が否定できません。たとえば「非24時間睡眠覚醒症候群」です。これは、睡眠時間帯が毎日1時間ほど遅れていく、という睡眠障害です。
(自由継続リズム型とも呼ばれています)

「睡眠時間帯が毎日ずれる」という点では、時間療法の実行中の睡眠パターンと似ています。

実際、「睡眠相後退症候群」と「非24時間睡眠覚醒症候群」には移行がある、という専門家の見解があります。

これまでの報告では、睡眠相後退型の経過中に自由継続リズム型と同様の25時間の睡眠覚醒リズムが挿間したり、自由継続リズム型の治療経過中に睡眠相後退型と同様の一定した睡眠相の遅れがしばしばみられている。したがって、両者には移行があり、病態生理を共有する可能性が考えられる。

睡眠学 / 朝倉書店

時間療法は自己流でやるのではなく、専門施設に入院したうえで実行することをおすすめします。

2.メラトニン療法

メラトニンは人間の体内で産生される物質です。睡眠ホルモンとも呼ばれ、眠気を誘う物質として知られています。しかし、その働きは単に寝つきをよくするだけではありません。メラトニンには体内時計のリズムを調整する働きもあるのです。

一般的な睡眠リズムの人と、睡眠相後退症候群ではメラトニンの分泌タイミングが異なっています。一般的な睡眠リズムの人は、メラトニンの体内濃度が夜9時くらいから上昇し、夜11時ころにピークをむかえます。

しかし、睡眠相後退症候群の人は普通の人よりもメラトニンの分泌タイミングが遅いのです。

◎メラトニン分泌の日内変動(イメージ図)

この遅れの分を、メラトニンを経口摂取することで補うのがメラトニン療法です。これによって、体内時計のリズムを前進させることができます。

メラトニンはサプリメントの形で摂取することができます。薬事法の関係で日本国内では売られていませんが、海外サプリメントを取り扱っている通販会社からは購入できます。1か月あたりの費用は1000円程度です。

メラトニンサプリ一覧(amazon)

amazonでのメラトニンの取り扱いは無くなってしまったようです。代替としてiherb(アイハーブ)というサイトが便利です。

(初めて注文する方は5ドルの割引を受けられます!)

なお、睡眠相後退症候群に対するメラトニンの服用量は、一回につき3~5mgです[出典]

ただし、メラトニンの効果には個人差があります。また、その睡眠作用のため翌朝の眠気につながることも考えられます(=ますます朝起きられなくなる)。最初から大量に使わずに、1mgから始めてみるのが無難だと思います。

メラトニンを飲むタイミングについては、専門書に次の記述があります。

睡眠相後退型患者にメラトニンを午後10時に経口投与したところ、入眠時刻、覚醒時刻が前進した。

睡眠学 / 朝倉書店

さらに、変則的ですが次のような使い方もあります。

午後8時に0.5mg~1mgを服用し、午後9~10時頃に0.5mg、午後11時~0時頃に0.5mg追加するといった使用法があります。

睡眠学Ⅱ 睡眠障害の理解と対応 / 北大路書房

いずれにせよ、概日リズム睡眠障害に詳しい医師の指導のもと、メラトニンを使うのが理想的です。
(関連: 睡眠障害の病院と専門医を探すときに知っておきたいこと

なお、メラトニンと似た働きをする『ロゼレム』という睡眠薬も効果的と言われています。一般的な睡眠薬と異なり、体内時計の調整作用を持つ薬です。「新しいタイプの睡眠薬ロゼレム」で詳細を述べています。

◎補足:メラトニン分泌について

メラトニンの分泌は、生活習慣と深く関係しています。たとえば、夜間に強い光を浴びると、メラトニン分泌のタイミングが後退します。つまり、夜遅くになっても眠気がおとずれなくなります。ですので、メラトニン分泌を妨げない生活習慣を心がけることも大切です。

具体的には、夜9~10時になったら「部屋の蛍光灯を消して暖色照明に切り替える」「サングラスやブルーライト防止メガネを使う」などの対策をとり、光の刺激を受けないようにしましょう。

3.高照度光療法

人口照明器具を使って、体内時計を調整する方法が「高照度光療法」です。具体的な方法ですが、2500ルクス以上の強い光を、1~2時間ほど正面から見つめます。

睡眠相後退症候群の場合、高照度光を朝に浴びるのがポイントです。体内時計のリズムが前方シフトして、夜眠くなる時間が早くなります。
(夜に実施すると逆効果になるので注意)

高照度光を浴びる時刻についてですが、

米国睡眠学会によるガイドラインでは、2000~2500ルクスの光を午前6時から9時までの間照射し、さらに午後4時から日没まで遮光グラスを装着することが推奨されています。

睡眠学Ⅱ 睡眠障害の理解と対応 / 北大路書房

とのことです。ただし、これは個人的には無理なのではないかと思います。睡眠相後退症候群の場合、そもそも朝早く起きられないからです。

いろいろな専門書を調べたところ「高照度光療法を午前9時~11時の2時間実施したところ、夜1時に入眠し、朝8時に覚醒できるようになった」という事例が載っていました[出典]。ですので、ひとまず午前中に実施するのが目安になると思います。

次に、どのくらいの期間続ければいいのか? についてです。2週間ほど継続すると、改善効果が現れるようです。朝型のリズムが定着したは、再発防止のため朝に太陽光を浴びるようにします。曇りの日でも、太陽光は2500ルクス以上の明るさがあります。
(太陽の光で不充分だと感じる場合は、人口照明器具で補うようにします)

なお、高照度光療法の装置は、睡眠障害クリニックなどで貸し出していることもあります。ただ、一定量の光量が得られさえすればいいので、市販の装置でも問題ないと思います。

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